Have you found the Happiness bird in your mind?
この記事はきらら同好会 Advent Calender 2024 15日目の記事です。
みなさん一週間ぶりですね。東北大学きらら同好会（TUKiC）初代会長、たけらぎです。
さて、みなさんまんがタイムきらら2025年1月号を読みましたか？読んでない方は今すぐ書店に行って買ってきましょう。
買ってきましたね。そしたら今度は127ページを開いてください。おしゃれな服を来ためんこい女の子が描かれています。そこから4ページ分読んで下さい。
読みましたね。好きになりましたね。推し作品になりましたね。ね。
この漫画は『しあわせ鳥見んぐ』という作品です。原作者先生はわらびもちきなこ先生、連載誌はまんがタイムきらら、主舞台は山形県です。
さてさっきしあわせ鳥見んぐを読んでいただいたと思うので、作品の魅力は既に理解されているものかと思いますが、更にその素晴らしさを理解するために、ここではしあわせ鳥見んぐのBest Pointsを解説していきます。
〈注意〉
この記事は『しあわせ鳥見んぐ』のネタバレを多く含みます。
ご理解のほどよろしくお願いいたします。
〇絵が美麗でめんこい
さて、こちらは単行本第1巻～第3巻までの表紙です。
中：わらびもちきなこ（2022）『しあわせ鳥見んぐ』第2巻, 芳文社
右：わらびもちきなこ（2024）『しあわせ鳥見んぐ』第3巻, 芳文社
これを見ただけでまずその美しさに目を奪われますね。色遣いや描き込みの細かさがキャラクターや野鳥の美しさを引き立てています。
まず第一にキャラクターに目を向けると、めんこい絵なのは言わずもがな、髪の毛のフワっとした感じや服に映るやわらかな光と影が綺麗に描かれています。個人的に特に注目したいのは色彩の配置で、鮮やかでありつつも野鳥を引き立たせるよう彩度に気を遣った色の選び方が素晴らしいんです。
この作品のもうひとつの主役ともいえる野鳥もとても丁寧かつ正確に描かれており、表紙はもちろんコマ中に出てくる野鳥も一種一種特定できるレベルです。あまり動かないキャラクターたちと躍動感のある野鳥の動きが対比の形になって静画に落とし込まれていて、リアリティが半端ないんですね。
さらに、彼らを彩る背景も見劣りしない美しさです。酒田市定期航路事業所所長の中條さんによると、単行本2巻の表紙は関係者が見れば一目で定期船とびしまだと分かるレベルで丁寧に描かれているのだそうです(1)。
アニメ化にあたってロケハンを行うケースは多くあるのですが、原作段階でここまで背景が丁寧に描きこまれている事例はほとんどありません。ここまで丁寧に書き込まれているからこそ、本当に現実世界に彼女らが降り立ったようなリアリティを味わえるんです。聖地巡礼したことがない方は一度東北にいらっしゃったら、その精緻さに驚くかと思います。
一コマ一コマにその特徴をとらえてめんこく描かれる野鳥と、色彩に気を遣って目立っているけど野鳥を引き立たせるキャラクター、素晴らしすぎます。ほんとに。
このコマは私の大好きなエナガが描かれていることもあってお気に入りのシーンです。野鳥のめんこさとキャラクターのめんこさを両方味わうことができて至福の限りです。
〇広がりを感じられる表現がすごい
さて、こちらのページは単行本第3巻で蔵王に行った時の1シーンです。
お気づきになられましたか。
8コマ中5コマ(右側2・3コマ目と左側1-3コマ目)の背景がつながっているんです。
通常、四コマ漫画というのは起承転結をはっきりさせるため、個々のコマはそのほとんどが独立して描かれています。しかしここでは、コマを維持しつつ絵をつなげて描くことにより、キャラクターたちと野鳥（イワヒバリ）の状況を丁寧に描写して空間の広がりを表しつつ、イワヒバリの発見からつながるストーリーの起承転結を綺麗に描いています。複数の条件を落とし込み、違和感なく仕上がっているこの表現法には脱帽です。
ここまで大規模なケースは珍しいですが、野鳥とキャラクターを背景をつなげて描くことでその位置関係を表現しているシーンがしあわせ鳥見んぐには多く見られます。
右：わらびもちきなこ（2022）『しあわせ鳥見んぐ』第2巻, 芳文社, p79
このシーンでは2コマの背景をつなげて描くことで、シーンの変化と状況描写を両方こなしています。山形市が内陸部にあることもあり、霞城公園や馬見ヶ崎川などを除くとバードウォッチングはどうしても樹上の野鳥を見上げる縦長の形になりがちなのですが、それを逆手にとって、キャラクターと野鳥・背景を分けつつもつなげて描いているんです。
これは先ほど紹介したお気に入りシーンですが、ここでも左側2コマでこの技法が使われていますね。上のコマに野鳥（エナガ）、下にキャラクター（翼・すず）を配置することで、エナガと翼たちの距離感を表現しています。なにをどうやったらこんなの思い浮かぶんですか（誉め言葉）。
〇バードウォッチングと絡めたストーリー展開
しあわせ鳥見んぐを語る上で絶対に外せないのがストーリーです。日常系4コマはその性質上ストーリーに重きを置く作品は多くないのですが、この作品はきらら四コマの中でもトップレベルでストーリーが綺麗に組み立てられている作品です。
！！！！！以下ネタバレ注意！！！！！
しあわせ鳥見んぐのストーリー構成は、概ね各単行本ごとに分けることができます。いずれも各キャラクターが持つ悩みをバードウォッチングを通して解決していくといった内容になっており、彼女らが相互に支え合う姿、野鳥の習性や生態と絡めた物語が魅力的です。
単行本1巻ではすずが「人は野鳥にとって危害を与えうる怖い存在である」という気づきからスランプに陥ってしまい、そこから立ち直る様子が描かれています。最初はたまたま霞城公園で鉢合わせただけの翼がその知識ですずに寄り添い、バードウォッチングをする上での人と野鳥の距離感を教える様子はすずだけでなく我々も勉強になりますし、それがすずのスランプ解決につながる美しい展開に心を打たれます。
そのあとの遠征での「こんな身近に特別があるって知ってから、日常がずっと楽しくなった」と翼に話すんですね。何気ない日常の尊さを知って、それを楽しむことを教えてくれる。この日常の大切さを教えてくれることが、私がしあわせ鳥見んぐ、そしてきららが好きな一つの理由でもあるのです。本当に美しいです。
単行本2巻で描かれるのは、飛島遠征を通じて感じた翼の葛藤です。単行本1巻ですずが気づいた「身近な特別」。翼はかつてその「身近な特別」であった ー飛島で唯一の子どもだったー のに、それを捨てて本土に引っ越してしまったことへの後ろめたさを感じて悩みこんでしまいます。現実でも飛島を含む東北の大部分では人口減少が深刻となっており、私自身も進学で東北の田舎から仙台に移住した身であるだけに、連載当時彼女に共感して悩んでしまったのを覚えています。
島の将来を考えたら、残った方がいいに決まっているし、地元が大好きだけど、地元を出ると決めてしまった。この決断は本当に良かったんだろうか...。この葛藤は翼や私だけでなく、地方を出て都市部に移住した若者なら誰でも一度は感じることなんじゃないかと思います。
そんな翼に今度はすずが「翼が勇気を出して渡ってきてくれたから会えたんだよ」って翼の悩みを否定せず、野鳥を例えにして励まします。ちょうど1巻と対比の構図になっているんですね。リスクのない渡りはないのは否定できない事実ですが、それを乗り越えて今ある日常を大切にする、そんなストーリーが本当に大好きです。
第3巻以降のストーリーも良いのですが、ここでは紹介しません。書店に走って今すぐ単行本を買い、美しいストーリーに浸りましょう。
さいごに
この記事を要約すると、
- しあわせ鳥見んぐを読め
- しあわせ鳥見んぐの聖地巡礼に来い
- しあわせ鳥見んぐを広めろ
ということです。みなさんしあわせ鳥見んぐを読みましょう。
なんと今なら山形県酒田市の定期船とびしまさんでコラボラッピングも開催中！
しあわせ鳥見んぐ、読むっきゃないですね。読みましょう。
読んで、聖地巡礼に行きましょう。お願いします。
出典
（1） 東北大学きらら同好会（2024）『Lepidolite Vol.1』, p13
